愛を餌に罪は育つ
暗い雰囲気のまま翔太君は帰っていった。


翔太君がどうしてあんな事をしたのかは分からない。


それに誰と電話で話していたのかも――。


朝陽の事を恨んでいたのかもしれない。


翔太君もしくは電話の相手が――。


聞いたところでやるせない思いが溢れてしまいそうだったからあえて聞かなかった。


二人とも死んでしまったのに、そんな思いに苛まれるなんて真っ平御免だ。


次会った時はまた笑って話ができるといいな――。


ドアをノックされ、声を聞かなくても姿を見なくても直ぐに誰だか分かった。


こんな遅い時間にやってくるのは一人だけだ。



『いい子にしてたか?』

「ちゃんといい子にしてたからご褒美頂戴」



ネクタイを緩めながらキスをしてくれる秋。


キス一つで会えなかった時間の寂しさは一気に何処かへ吹き飛んでしまう。


その時微かに香った匂いに私は首を傾げた。



「――お線香?」






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