愛を餌に罪は育つ
『彼女はそんな事はしていないとハッキリ言い張った。それに預金通帳からは特に変わったお金の流れは何もなかった』

「だったらどうして――」

『彼女のパソコンから社内の極秘ファイルにハッキングした痕跡が残っていた。いくら違うと言われても彼女はパソコンに詳しかったし、それだけで十分な証拠だった』

「詳しかったなら痕跡を残す様なヘマするはずないよ――嫌われてたみたいだし誰かにはめられたんじゃないの!?」



家の都合じゃなくて、辞めさせられたっていう噂もあると言っていた。


こんな理由だったなんて――。



『彼女以外に目ぼしい人間は見付からなかった。役員どもは社内の人間にばれる前に早く処理をしたかったんだろう』

「そん、な――」

『彼女が海に身を投げたのは今年に入って暫くたってからだそうだ。もっと力になってあげていればこんな事にはならなかったかもしれない――』



私は秋の手を握り首を横にふった。


遺体が見付かっていない為普通は一年は葬儀は控えるものだが、ご家族がもう耐えられなかったんだろう――。


目撃者がいるというのに、生きているかもしれないという淡い希望を抱いて毎日を過ごす事に、ご家族は疲れてしまったのかもしれない。


自殺という道しか彼女にはなかったんだろうか。






< 385 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop