愛を餌に罪は育つ
兄と仲が良かったなら朝陽も大切な友達を失った事になる。


私に気をつかって私の家族の話題を避けていたのかもしれない。


繋いでいる手をギュッと握ると、朝陽がハッとしたように顔を上げた。



『ごめん、美咲の方が辛いのに僕がこんなんじゃダメだよね』

「そんな事ない。ごめんね、自分ばっかり辛いような顔をして――」



会話が途切れ、暫く無言で街灯に照らされた道を歩いた。


何か話さなきゃと思うのに何を話せばいいのか分からない。



『――聞けなかったんだ』

「えっ?」

『美咲が治療に来るたびいろんな話をして仲良くなった。だけど恥ずかしくて連絡先を聞けなかったんだ。そんな僕に協力してくれたのが圭だった』

「お兄ちゃんが私たちの恋のキューピッド?」

『うん、圭には凄く感謝してる。キューピッドって感じじゃないけどね』



朝陽が可笑しそうにクスクス笑うものだから私もつられて笑ってしまった。


今は抱き付いたり手を握ったり積極的な朝陽も出会った頃は奥手だったんだなと思うと、余計に笑ってしまった。



「また私の家族の話を聞かせてくれる?」

『勿論だよ』



私たちは笑顔のままコンビニの中へと足を進めた。


私の記憶が戻れば犯人を捕まえる手がかりが見付かるかもしれない。


でも、もしも私が家族を殺し、証拠を隠滅するために家に火を放ったとしたら――そう思うと記憶を取り戻さないままでいたいと思ってしまう。


私は――私が怖くて堪らない。






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