愛を餌に罪は育つ
梓に近付きすぐ傍に立っているというのに私の存在に気付いてないようだ。


私は梓の手のひらを覗きこんだ。



「指輪?」

「ッッ!?」

「ご、ごめん」



勢いよく上げられた顔は酷く驚いていて、私は思わず謝ってしまった。



「本当ごめん――驚かせるつもりはなかったんだけど――」

「私の方こそボーッとしちゃってごめん。はい」



指輪を差し出され首を傾げると、梓は不思議そうな顔をした。



「コートのポケットから落ちたよ」

「私の?」

「うん」



今着ているコートは朝陽のマンションに置きっぱなしになっていた私の洋服のうちの一着で、そのコートのポケットから落ちたという事は私の指輪なんだろう。


指輪を受け取りマジマジ見たが何も思い出せない。






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