愛を餌に罪は育つ
「訳あって今一緒に住んでるんだけど、付き合ってる訳じゃないの――」

「付き合ってないのに一緒に住んでるの!?」

「――家族も家も無くしちゃったから。朝陽は記憶も居場所も失った私を助けてくれたの」



さっきよりも周りのガヤガヤした音が大きく聞こえる。


私たちのテーブルが静まり返っているからかもしれない。



「二人共そんなに悲しそうな顔しないで。幸か不幸か私は記憶を無くしてるから悲しくないの。だから平気だよ」

「今は平気かもしれないけど辛くなる時がくるかもしれない。その時は私なんかで良かったら傍にいるからね」

『俺もできる限り力になるよ。だから遠慮しないで何でも言って』

「二人共ありがとう。私にも何か出来る事があったら遠慮なく言ってね。二人の力になりたい」



私たちは笑顔でお酒の入ったグラスを持ち上げそのまま乾杯した。


グラスは気持ちいい程の音を鳴らした。


気分が良いからか一度飲むと中々飲むのを止められず、グラスいっぱいに入っていたお酒はあっという間に半分まで減ってしまった。


お酒ってこんなに美味しいんだ。


癖になりそう。






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