愛を餌に罪は育つ
「ごめッッ――上司が、見てるから、だから――」



私たちの間に重たい空気が漂い始めた時、副社長が車から下りてきた。



『ご家族かな?』

『彼氏です』



私が言葉を発するよりも先に朝陽がそう言いはなった。


彼氏って――。


朝陽は副社長に対して敵対心剥き出しだった。


だけど副社長は気にしていないようだ。



『プライベートな事ではあるが、一緒に住んでいるのか?』

「はい」



今度は朝陽が答えてしまう前に自分の口でそう答えた。


何故か気持ちが沈んでいく。



『そうか、それなら私も安心して帰る事ができる』

「――――」

『明日は本当に無理をしなくていい。では私は失礼するよ』



副社長は私の事を思って言ってくれたんだろうけど、安心して帰る事ができると言われて泣きそうになった。


お礼をしているフリをして、私は今の顔を見られたくないが為に深くお辞儀をした。


頭を上げ一瞬目が合ったような気がしたけど、副社長は微笑む事なく車に乗り込み直ぐに車を走らせた。


見えなくなるまで見送りたかったが、朝陽に腕を引かれ半ば強引に部屋へと連れていかれてしまった為、その小さな想いは叶わなかった。






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