愛を餌に罪は育つ
玄関のドアを開け中に入るとドアが閉まるよりも早く朝陽に抱きしめられた。


病院で抱きしめられた時のように力強く。



「苦しいよッッ」

『――――』

「朝陽ッッ!!」

『なんで電話に出ないんだよッッ!!』



今までに聞いたことがないほどの朝陽の大声に私の肩は跳び跳ねた。


体を強張らせ固まっていると、どんどん抱きしめる力が強くなる。


こ、わい――知らない人に抱きしめられているみたい――――。


力を緩め私の顔を除きこむ朝陽の目からは涙が流れていた。



『また何か事件に巻き込まれてたらどうしようってッッ事故に合っていたらどうしようってッッ怖かったッッッッ凄くッ怖かった――ッッ』

「ごめッッなさい――――」

『ッッ無事で良かった』



そう言った朝陽の唇は震えていた。


朝陽の腕に手を置き、私はもう一度謝った。



「本当にごめんなさい」



涙で濡れた顔のまま微笑んだ朝陽の顔はとても切なく見えた。



『何があったのか聞かせてくれる?』



その言葉に頷くと今度は私の手を優しく握り、朝陽はリビングへと足を進めた。


朝陽の後ろ姿は細身だけど筋肉はついていて、とてもスマートだなとこの時初めて思った。






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