愛を餌に罪は育つ
副社長が目を細め微笑んだ。


いつも表情を変えない副社長の笑顔は、凄く優しくて私は好きだなって思う。


だからこの笑顔を見れたときは嬉しいし温かい気持ちになる。


だけど――みんながいるこの場所でその笑顔を見せないで――そう思ってしまった。



『何もついていないよ。少し顔が赤い気がしたんだが、体調が悪いなら帰りなさい』

「いえっ、体調は大丈夫です」

『ならいいが、今日の飲み会で無理をしないように。土日はゆっくり休みなさい』

「はい、ご心配して頂いてありがとうございます」

『私はそろそろ行くが、何かあれば電話してくれ』

「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」



私たちに背を向け歩き出した副社長にお辞儀をして、姿が見えなくなるまで立ったままお見送りした。


今日はもう外出したまま会社には戻ってこない。


残りのご飯を食べようと椅子に座ると、二人から痛いほどの視線を感じた。


視線だけじゃなく何か言いたげだ。


自分から話をふるのはなんとなく気が進まなくて、私は気づかないふりをして食事に取り掛かった。






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