愛を餌に罪は育つ
隣に座っている梓が更に距離を縮めてきているような気配がする。



「あんなに素敵な人と仕事してて好きになったりしないの?」

「そんな風に思ったこと無いよ。上司だし、未だに緊張するしね」

「そうなの?でも好きになっても辛い想いをしそうだよね。その点加藤君だったら問題なし」

『お前な――嬉しいような腹立つような――複雑。俺だってそれなりにモテるんだからな!!』



私は声を出して笑ってしまった。


加藤さんと目が合い、不貞腐れたような顔をされ焦ってしまった。


だけどそんな私を見て今度は加藤さんが笑いだした。



『梓の言うとおり副社長には到底及ばないけど、俺は真剣に美咲ちゃんの事が好きだよ』

「あんたね、今まで遠慮がちだったのにいきなり積極的すぎるわよ。これ以上美咲が赤くなったらどうすんの?倒れちゃうわよ」

『ごめんごめん。そういえば副社長がすぐ傍にいるんだなと思ったら急に焦っちゃってさ』



副社長とは本当にそんな関係じゃないし、私も副社長のことが好きなわけじゃない。


副社長だって私の事は秘書としか見ていないはず。


そんなに気にする必要はないのに、本当に気にしている加藤さんが少し可愛く見えた。



「今日の飲み会楽しみですね」

「そうだね、いろんな人と話せたらいいね」

『変なムシがつかないように俺は美咲ちゃんの隣』

「あんたも変なムシの一人でしょ?」



また二人の言い合いが始まり、私は笑いながらご飯を食べた。






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