10年越しの恋
木々が見事なまでに色づく季節、もう11月になっていた。

卒論前の最後の関門、ゼミ発表。
原稿を書くため図書館に籠った。

発表当日はなぜか院生の姿も見受けられる。

「では岩堀さん、前に出て」佐倉教授の先導で進む。

「では、卒論のメインテーマに据えた小児がん患者とその家族へのカウンセリングについて……」

緊張のあまり終始原稿を見たまま発表を続けた。

あと2人の発表も無事に終わり教室に一人ほっと座っていた。

「岩堀さん、よくがんばりましたね。興味本位で参加した院生も褒めてましたよ」

佐倉教授が缶ジュースを手に隣に腰を下ろす。

「突然なんですが、ここの院を受験してみませんか?」

渡されたパンフレット。そこは私が目指す分野の第一人者、佐々木教授がいる大学だった。

「ただこの大学は現役では難しいと思います。卒業後の9月、秋入試を目指してがんばりませんか?」

思いもよらない提案にしばらくの間返事ができなかった。

「今すぐの返答じゃなくていいです。でも僕も最大限協力しますから」

「いえ、がんばります!ありがとうございます」

強い口調で決意を伝えると、安心した表情を浮かべた。

「じゃあこれ資料です。あと卒論はかなり頑張らないと、院試に不可欠ですから」

「ありがとうございます!」

そのまま駆け足で雅紀の待つ10号館へと走った。

「まあちゃん聞いて! 大ニュース」

うれしさのあまり一気にことの全容を伝える。

「ね! すごいでしょ!!」

そんな私の姿に同じように喜んでくれた。


「もうさぼらないでがんばらないとね」

手をつなぎ紅葉に赤く染まる石畳を駅へと向かい歩いた。
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