10年越しの恋
のんびりバスルームから出て行くと、雅紀もリビングのソファーでくつろいでいる。

「まあちゃん」少し濡れた髪のままハグした。

「どうしたの? 髪冷たいよ」引き寄せられるまま膝の上に座る。

互いの息がかかるほどの近さに高鳴る鼓動。

あったかく優しい雅紀の目に、改めて二人の近さを感じ顔が火照る。

「のぼせた? 真赤だよ?」

大きな手で濡れて額に張り付いた髪をかき分け、目をのぞきこんだ。

なぜか無性に胸がいっぱいになり首にしがみつく。

「瀬名?」優しく髪を撫でる雅紀の手に涙が零れた。

「何でもない。あと10秒このままでいて」

二人が出会えたこと、こうして同じ時間を共有出来ていることに。

家族よりも友達よりも、この世界で一番大好きな人に出会えたことに感謝した。

「夕日が沈むよ、ほらこっち見て!」

雅紀の肩で涙を拭いて振り向くと冬の澄んだ穏やかな海に、真っ赤な太陽が少しずつその姿を隠そうとするところだった。



ディナーもホテル内のダイニング。
クリスマス仕様に美しくセッティングされたテーブルで、雑誌から抜け出したような盛りつけの料理を食べた。

メインが終わったところでウエーターが雅紀に耳打ちをしている。

そんな様子を眺めていると、元々絞られていた照明が真っ暗になり、ぱちぱちと光る何かが目の前に運ばれてきた。

「お誕生日おめでとうございます」

そんな声に店内の従業員さんがみんなで歌ってくれた。


「Happy birthday to you ~」


目の前には ”23歳 おめでとう”のプレートが乗ったケーキ。

「願いを込めて吹き消すと叶うんだよね」

前に話した言葉をそのまま言ってくれる。

「じゃあ一気に、せーの」

雅紀の声に息を吸い込んで吹き消した。このままずっと一緒にいることができますように、願いを込めながら」

ゆっくりと戻る照明の中、レストランにいたたくさんの人が拍手をくれる。

「クリスマスの飾りのないケーキ……」

雅紀の気持ちにまた涙が止まらなかった。
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