10年越しの恋
大晦日。今年も雅紀と初詣へ行った。

毎年思うのは、除夜の鐘が響く中での神社。
冬の肌に突き刺さるような寒さは苦手でも、1年の慶として初詣はいいものだと思う。

新年を祝う多くの人から漂う雰囲気は華やかで、新しい年の始まりにまた新しい一歩を踏み出すそんな感じに気持も引き締まる気がするから。

「今年も大吉!」

「俺は…。小吉…」

「まあまあへこまないで! 私の運を分けてあげる」

そうして新たな年が始まった。


単位認定が甘いので有名な大学だが、さすがに4年生。とりわけ就職が内定している学生にとっては卒業に向けての正念場、最後の試験もある。

まして卒論が必修になっている文学部の生徒は皆落ち着かないラスト3か月を迎えていた。

図書館で卒論の文献を読んでいるとメールが来た。

”さやでーす。食堂で待ってます(*^_^*)”

あいかわらずのんきだよ…。そう思いながらカウンターで貸出手続きを終え食堂へと向かう。



冬だというのにさやはいつものようにスプーンでソフトクリームを食べていた。

「瀬名ー ねぇ、これ新作だよ。アポロチョコの味がするの。かなりいけてるよ」

小さなスプーンを私の口に入れてくれた。

「これ美味しいね! 甘いものが嫌いでも不思議にここのは食べられるけど、これ最高傑作かも」

「でもこれもあと少しで卒業なんだよー」

「卒業できればね」

さやも私も途中適当にサボったつけで単位がかなりやばい状態だった。

「さや、卒論はどんな感じ?」

「適当に書き始めてるけど、思ったより進まなくってかなりやばい」

「やっぱり? 意外に書けないよね?」

「うん……。結構やばいかも」

そういいながらも微妙に余裕だった私たち。

この2週間後、あんなに大変な思いをするなんて。

今となってはいい思い出だけど。

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