10年越しの恋
異常に混雑しているカウンターに一人イライラしている間にこんな話が繰り広げられているとは夢にも思わなかった。

自分がここまで恋愛に鈍感だったとは……。



「前から聞きたかったんだけどさ、ケンって瀬名のこと好きなんじゃないの?」

「突然なんだよ」

大きなお弁当箱を開きながら答える。


「まあそうかもな。昔の話だけど」


ぼそっと何気なく言うその言葉をスルーしそうになったと後でさやが教えてくれた。


「1年生の頃、おまえらと離れてあいつ一人で授業受けててさ、なんか寂しそうで気になって」


「あぁ、瀬名変に孤独を好むところあるからね」


「でも年上の彼氏がいるって噂だったし、全く友達のつもりだった」


「うん、それで?」


ワイドショーを見るおばさんのようなさやとまさよ。


「でもいつだったか授業中一番後ろの席で静かに涙流してるの見かけてさ、どうしたのって声かけたらなんでもないって無理に笑おうとして」


「浩一さんの浮気を見ちゃった時かな?」

小さな声でまさよがさやに確認する。


「そんな所がなんかツボで… って俺なに言ってんだろうな。もう昔の話だからな」

さやがふざけてケンの頭をよしよしと撫でている。



二人がそんな話をしていたなんて露知らず。


「もしかして二人で来てんの? なにラブラブなの? 私がオムライス売り切れて落ち込んでるのに」

そんな言葉に顔を見合わせているのが不思議だった。


「なにぃ? なんか噂話でもしてた?」

「瀬名ってホント不思議だよね。大人なんだかこどもなんだか」


訳が分からないまま不本意なきつねうどんを食べた。
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