10年越しの恋
2月に入ると試験はひと段落したものの、休む暇もなく卒論の作成に追われる。

適当に本をまる写しして提出する人もいたが、あまり真面目とは言えない4年間を過ごしていた私たちはこれだけはとやっきになっていた。

ぜったいA取るの書かないとやばいのにー。院が! 人生が掛ってるの!

夜中一人、頭の中でそう叫びながらPCに向かっていた。

♪ブーン♪

時計代わりに机の上に置いてある携帯が雅紀からの着信を知らせた。

取るなり訴える。


「まあちゃーん 書けないよ……。おまけにラスト2週間で30P追加を言い渡された……」

「マジで? 大丈夫?」

「もう寝る時間もないし、夜中に人が死ぬとか生きるとか考えてたら気が狂いそうだよ↓」

「なに、何に悩んでるの?」

「現代社会におけるデスエデュケーションの必要性とかって偉そうな主題掲げたのはいいんだけど、書けば書くほど迷路なの……」

「そっかぁ、なんで瀬名はそれをテーマに選んだの?」

書きながら何度も考えたことだった。

なぜそんなテーマに惹かれたのか。
ヒントのありかは自分の22年間の人生だろうと、そんなことしか思い当たらずたくさん考えた。

心に浮かんだのは、本当は居たはずの姉を今でも思い出し年を数える母の言葉。

小学生の頃、なぜか仲のよかった自閉症のタケちゃんの存在。

中学でひどいいじめに遭い、自分の存在を否定したこと。

そんなことが頭に浮かんだけど、それがどう繋がるのかわからない。


「基本に戻る。それがスランプ脱出のヒントなのかもね」


「あまり深く考えんなよ」

「うん……」

雅紀の言葉があまり耳に入らないぐらい出口を探していた。
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