10年越しの恋
まだ肌寒い3月。

私たちは卒業の日を迎えた。

色とりどりの袴に身を包んだ女の子たち。着なれないスーツ姿の男子も入学式の頃よりはずいぶん大人になっているのがわかる。

式場の体育館は華やぐ雰囲気に満たされていた。

待ち合わせ場所に現れたさやはなぜかタイの民族衣装、アオザイを着ていた。

「私の身長に合う袴がなくって……」

長身でモデルのようなさやにはすごく似合っている。

「ごめーん」

赤の着物に紺色の袴をひらひらとはためかせながら走るまさよもとっても綺麗。

私も黄色の着物に深緑の袴を着ていた。



式典は終始騒がしく、途中で抜け出す学生も多い。

私たちも例に漏れず抜け出し、5分咲きの桜の下。
いつも待ち合わせた10号館で煙草を吸っていた。
衣装に不釣り合いなのは無礼講だと笑った。

「ここも今日が最後か…」

アオザイ姿でしんみりするさや。

「いろいろあったけど、楽しかったよね」

少し泣きそうな気分になる。

「でも一生の思い出ができたよね」

普段無口なまさよの言葉が胸に響く。


大学生活。社会へ出るための最後の準備期間。
高校生活からは一変し、自分の意志でどんな風にも過ごすことができる。

私達はまったく真面目な学生ではなかった。
勉強はほどほどに、恋や遊びを優先した。

彼の失踪というありえない結末を乗り越え、また新しい恋にがんばるさや。

卒業後の進路は編集社でのバイト。

浩一を好きになり、初めての恋を知って強くなったまさよ。

4月からは1流企業のOLになる。


そして私、岩堀 瀬名。

幼稚園からずっと小学校、中学、高校、大学。

かならず決められた通うべき場所があった。

でも明日からは、卒業と同時になんの肩書もない、大学院を目指す浪人生となる。


でも私には大好きな雅紀と大切な友達がいる。


きっとこれから先たくさんの辛いことが待っているかもしれないけれど、必ずこの4年間の思い出が支えになる時が来る。




「きっと大丈夫」そう思った。
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