10年越しの恋
ベイエリアにあるホテルのロビーには、同じように卒業式を終えた人が多く見受けられた。

みんなで楽しめるようにと取った2部屋続きのコネクティングルーム。2部屋の中央に広いリビングがある。

すぐに貰ったお重を開き、飲み始めるさやとまさよ。

そんな二人の楽しそうな声を聞きながらバスルームへと入った。

着慣れない袴の紐を解き、シンプルなワンピースに着替えるとやっと少しだけホッとする。


「卒業か……」

4年間の出来事、今日告げられたケンの気持ち。

少し感傷的になりながら鏡に向かっていると、ドアをノックする音。

「はい?」

鏡越しに雅紀の姿が見えた。

やっぱり少し後ろめたい思いが心に広がる。
鏡越しに合った目を思わず逸らしてしまった。

ぱたんとドアが閉まると同時に抱きしめられる。


「まあちゃん? 苦しいよ」

腰に回される手を上から握りしめると、髪に顔を埋めるようにもっと強く力が込められた。

「瀬名、どこにも行くなよ」



今日、正門前。さやとまさよの手前無理して笑っていたに違いない。

不安だったのかな? 心配だったのかな?

私が好きなのはまあちゃんだけだよ。

誰よりも大好きだから。



そっと振り向くと、優しく唇を重ねる。

気持ちを伝えるように雅紀の胸に顔を押し付けると、いつもより早く打つ鼓動が聞こえた。

無言のまま抱き合っていると、外から呼ぶ声が聞こえる。


『瀬名ー、早くおいでよ!』

ふと我に帰って笑い合った。

「行こう!」

雅紀の手を取りリビングへと向かった。
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