10年越しの恋
「びっくりしたよ。こんな近くに引っ越してくるなんて」

「ばたばたしててゆうには連絡してなかったもんね。でも瀬名に話したのも3日程前かな」

「うん、突然電話掛ってきて一緒に家探してってね」

「そういえば仕事はどう? まだ研修中だっけ?」

「聞いてくれる?」

社会人としては1年先輩のゆうに愚痴とも相談ともつかない話を始める。


そんな二人の姿を微笑ましく思いながらも少し寂しさを感じる。

そっとベランダへと向かい煙草に火をつけた。

「瀬名」

そんな私の様子を見ていた雅紀が隣に立つ。

「大丈夫だよ。瀬名は夢を叶えるんでしょ」

雅紀の言葉に力なく笑顔を返す。

今までに感じたことのない不安に気持が押しつぶされそうだった。

「なんか怖いんだ…」

さわやかな春の風に吹かれながら空を見上げる。

「俺がついてるから。しっかりがんばって」

「ありがとう、そうだよね。まだ始まったばかりなのにこんな弱気になってちゃだめだよね」

優しく髪を撫でてくれる雅紀の手のぬくもりに、
しぼんでいた気持ちが戻るのを感じた。
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