10年越しの恋
5月に入り、昼間は汗ばむぐらいに暖かい日差し。

GW前最後に教授に課題のチェックを受けるために大学へと足を運んでいた。

♪ブーン♪

マナーモードにしておいた携帯がポケットの中で着信を知らせる。

「もしもし瀬名? さやだよ」


「さや!!! 久しぶりー。元気にしてる?」


「うん、元気だよ。それより今どこ?」


「大学。先生の指導受けに来てる」


「じゃあさ、いつもの裏山のカフェで待ってるから会えない」


「もちろん! 30分後ぐらいになるけどいい?」


「OK、待ってるね」



久しぶりの裏山へと続く坂道。

まだそんなに時間が経っていないから変わっていないのは当たり前なのに何故か少し懐かしい感じがした。


「さやー」


いつものソファー席でお茶を飲むさやに手を振る。


「お待たせしました」

向い合わせに座った。


「どうしたの? バイトは」


「その話で来たの」


アイスティーが運ばれてくるのを待って話を始めた。

「なに? いい話?」

どうかな? と複雑な表情を浮かべる。


「実はね、東京に行こうかと思って」


「東京?」


「今のバイト先で知り合った人が東京で小さな出版社やってて、そこを手伝わないかって誘われたんだ」


「それで?」


「でね、最初の3か月間はバイトっていう条件なんだけど。やっぱりこういう仕事って東京がメインだし、挑戦してみようかなって……」


そんなさやはもう心を決めているみたいだった。


「そっか、ちょっと寂しくなるけどがんばっておいでよ! 応援するよ。親は納得してるんだよね?」



「半年で社員になれなかったら帰って来いって期限きられたけど」



「じゃあさ、GWにみんなで送迎会やろうよ。久しぶりにBBQなんてどう?」



「いいね」


少し不安そうなさや。でもせっかくのチャンスを掴んでほしいと思う。



社会人になるって驚くほど不安なことだらけだ。

でも前に進んでいくしかない!


それが生きていくってことだから。
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