10年越しの恋
真っ暗な道をカートの光だけを頼りに進む。

漆黒の闇という表現がぴったりだ。

虫の音もわずかで、サトウキビの葉づれの音と遠くに聞こえる波の音以外何もない。


「なんだか静かすぎて怖いね」


「でも見て、きれいだよ」

空を見上げると見たこともない星空が広がっていた。



教えられた通り到着した船着場から見る空はさらに格別だった。

ベンチに仰向けになり空と平行になる。

人工的に作られた桟橋に打ち寄せる波の音だけを聞きながら見上げた夜空。


「まあちゃん、きれいだね」


互い違いに横になった雅紀の顔がすぐ隣にある。


「これが本物の天の川……」


「ここなら織姫様と彦星様の話を信じたくなるね」


いつもの雅紀の温度を感じながら星を見上げ続けた。



「そろそろ帰ろうか」


そんな言葉に即されホテルへと戻った。



ドアを開くとつけっ放しで出かけたベットサイドの柔らかな光が目に入る。

「消すの忘れてた」

その光を頼りに砂で汚れた足を洗うためにバスルームへと駆け込んだ。


暖かいお湯の感触に全身が潮風でべたつくのを感じる。


「まあちゃーん このままお風呂入っちゃうね」

そう声を掛けて、着ていたワンピースを脱ぎすてた。



泡ぶくになってさっぱり、バスタオルを体に巻きつけたまま鏡に向かっていると開いたドアの向こうに雅紀の姿が写った。


「ごめん、先にシャワー。次どうぞ」


タオル一枚の自分の姿に恥ずかしくなり隣をすり抜けようとした瞬間抱きすくめられた。


「まあちゃん?」


見上げる頬に、首筋に雅紀の唇が触れる。

なにも言わず私の顎を持ち上げいつもとは違うキス。

何度も繰り返す優しい感触。

そのまま抱きあげられ真新しいシーツの上にそっと横たえられた。

薄明かりの中見上げる雅紀の目に愛おしさを感じる。


「大好きだよ」


優しい手が触れる度に体中が熱くなる。


自分が自分でなくなってしまう感覚。

そっと抱きしめる腕にしがみついた。



今までにないほど雅紀の体温を肌を感じ眠りについた。
< 149 / 327 >

この作品をシェア

pagetop