10年越しの恋
「そろそろ行こっか」


「うん」


返事をしてみたもののなかなか立ち上がる気にならなかった。


「怖い?」


雅紀の問いかけに素直に頷く。


「がんばろう! 俺が守るから、信じて」


雅紀の言葉に重い腰を上げた。

ここから雅紀の家までは2時間。

車の中ではまったく関係のない、まさよの新しい彼の話やさやから久しぶりに連絡があったことなどを話して過ごした。

そうでもしないと目に見えない重圧に押しつぶされてしまいそうだったから。


威圧感すら感じる雅紀の家の前に到着したのはちょうど11時頃だった。

通用門から庭を抜けて玄関へと向かう。

あまりの緊張に昨夜から寝ていないとは思えないほど頭が冴えていた。


「ただいま」


響く雅紀の声に返事はない。


靴を脱いでリビングへ向かう雅紀の後を追いかけた。


ドアを開くとテーブルには父親と母親が隣り合って座っている。

「いるんなら返事しろよ」


明らかに不機嫌な雅紀に胃がきゅっと縮まる。


「こんにちは、この度はご心配おかけして申し訳ありません」


前を見ることが出来ずに頭を下げた。


「まあまあ瀬名さん、そんなに小さくならないでこっちに座って下さい」


やさしい父親の隣ではテーブルの上に手を組んだまま座る母親。


小さく深呼吸をして雅紀と二人で席に着いた。


「お茶でも入れますね」


そう言って席を立った母親は内線でさえちゃんを呼んでいるみたいだった。
< 170 / 327 >

この作品をシェア

pagetop