10年越しの恋
さえちゃんの部屋は8畳程の広さ。

女の子らしいかわいい小物でいっぱいだった。


「そこにどうぞ」


今日初めて聞くさえちゃんの声は氷のように冷たい。

だまって2人の目の前に固い表情のまま座った。

私の気持ちを代弁するかの様にお腹がきゅっと張る。

”大丈夫だよ”心の中で華ちゃんに伝えた。


「率直に言わせてもらいますが、今回は諦めてもらえないでしょうか?」


その言葉が持つ冷酷な響きに頭が上手く働かない。


「雅紀は今年の9月でやっと21歳、まだまだこれから将来のある身です」


「はい、それは分かっているつもりです」


「なら話は早いわ。もちろんタダでとは言いません、それなりの慰謝料をお渡しします」


冷静なつもりでいたのに、発せられる言葉の意味が全く理解できなかった。


「それはどういう意味ですか?」

震える手を固く握り締めながら答える。


「留学なさっていたぐらい頭のいいあなたならおわかりでしょ?」


「どういうことですか?」


「ママ、分かんないみたいだからはっきり言ってやればいいのよ」


「だからね、どうせ雅紀にお金目当てで近づいて子供作ったんでしょ? だからお金あげるから堕ろせって言ってんの」


昔から知っていたはずの女の非情さを思い出す。


「だって私知ってるんだよ。私の彼のお姉さんがあなたの同級生で、いろいろ問題のある人だってこと」


その瞬間フラッシュバックが起こる。

頭痛とともに思い出される記憶。
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