10年越しの恋
部屋に帰って携帯を見ると電源が切れていた。

充電器に差し込みボタンを押すと5分おきに雅紀からの着信があったことを示す。

「帰ったら電話してね」

そう言ってたことを思い出し慌てて発信。

ワンコールも鳴り終わらないうちに声が聞こえる。


「瀬名? どこ行ってたんだよ! 何度掛けても繋がんないし」


「ごめん… ゆうと会ってて充電切れてたのにも気づいてなかった」


「今日あんなだったし心配するだろ」

いつもなら優しく気持ちを暖かくしてくれる雅紀の声が悲しく耳に響く。

崩れてしまいそうな心を見透かされないようにと祈った。


「まあちゃん、明日会えないかな?」


「明日? 全然大丈夫だよ。昼頃に迎えに行こうか」


「うん、ゆっくり寝た後でいいからね」


あの後も必死で話し合いしたんだ! って元気のない私を励まそうと話を続けてくれる雅紀。

でももう上手く返事を返す力が残っていなかった。


「まあちゃん、今日は疲れたからもう寝るね」


「そっか、昨日から寝てないんだもんな。じゃあいい夢を、愛してるよ」


「ありがとう」


切れた携帯を手になんとなくメールを開くと、この2週間雅紀と交わしたたくさんのメールが表示された。

妊娠を告げた日の夜、動揺しながらもおめでとうと送ってくれたたった一言のメール。

病院でもらった超音波の写真を携帯に取りこんで送信してくれた。

大学を辞めるという雅紀を説得する為に話し合った何十通のメール。

産むことを決めてからはママと華へと必ず書いてくれたタイトル。


何度も何度も読み返しながら心の中にある悲しい決意を固めていった。

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