10年越しの恋
熟睡出来ないまま朝を迎えた。

熱いシャワーを浴びて目を覚まし、久しぶりにきちんとメークをして髪を巻いた。

13時 雅紀から ”着いたよ、いつもの公園前ね”

メールを閉じ「行ってきます!」


自分を励ますように大きな声を出した。



「お待たせ!」


そう言いながら助手席へと乗り込んだ。


「まあちゃん、しゃぶしゃぶ食べたい!」


「昼間からしゃぶしゃぶ?」


「うん! 食べ放題行っちゃう?」


「なんでそんなテンション高いの?」


「いいからいいから、あそこの店行こう!」


ここ数日暗い顔ばっかり見せてごめんね。

今日で終わらせるから……。

少しリラックスした雅紀の横顔をそんな気持ちで眺めた。


雑然と並ぶ野菜やお肉をテーブルへ何度もたくさん運んだ。


「食べたいって言ったくせに全然食べてないじゃん」


「いいの、最近まあちゃんあんまり食べてなかったでしょ」


「なんだよそれ」


「だってそれ以上痩せられたら私より軽くなっちゃうし」


久しぶりに笑い合った。


「もう食べらんないよ」


お腹をさする雅紀を見ながら意を決した。


「それからさ、今回は諦めよ」


「何を諦めるんだよ」


「だから子供のことだよ」


胸が張り裂けそうだった。

でもあくまで何気なく話した、本当の気持ちが伝わらないように。


< 180 / 327 >

この作品をシェア

pagetop