10年越しの恋
夜になって電話ではなくメールが届いた。


”今日の話、本当にそれでいいんだな? 俺はどうしても納得はできない、でも瀬名の気持ちが1番大切だから ”


たった数行の文字から雅紀のくやしい気持ちが痛いほど伝わってくる。

本当にこれでいいの? 後悔しない?

何度自問自答を繰り返しても答えなんて見つかるはずがない。

二人が望む選択肢はそこにはなかったから。

これで終わってしまう。ギュッと目を閉じて送信ボタンを押した。


”本当にごめんなさい、手術の日一緒に行ってもらえますか?”


”わかった。日にちが決まったら連絡して”


2週間小さな命を守るために雅紀と頑張った。

初めてその姿を見た日の幸せを一生忘れることはできないだろう。

どれだけつわりが苦しくてもそれが喜びだった。

初めての3人で行ったドライブ。

最初で最後になってしまうなんて思ってもみなかった。

日に日に固さを増すお腹に手を当てる。

華ちゃん、ごめんね…。

もう涙が止まらなかった。

鳴き声が外に漏れないように布団をかぶって泣き続けた。

涙が枯れるまで。



次の日に病院へ電話を掛けて手術の予約をする。


「前日から入院していただきます」


その後も続けられる電話越しの声はとても遠く聞こえた。

それでも伝えられるままに細かい注意事項をメモし電話を切った。




8月10日 別れの日が決定した。
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