10年越しの恋
8月10日 午後から手術が予定されていた。
落ち着かない様子の雅紀は何度も喫煙室と部屋を往復していた。
《コンコン》
「はい」
「岩堀さん、時間です。行きましょうか」
黙って頷き起き上がりベットへ腰かけて立ち上がろうとした瞬間に雅紀が言った。
「すみません、あと5分だけいいですか?」
状況を察したように看護師さんは出て行った。
「どうしたの?」
私の問いかけにも答えずにお腹に手を当てる。
そっと何かを話しかけるように、ずっとずっと手を当て続けた。
手術室は診察室とそれほど違いはなかった。
でも柔らかなピンク色ではなくくすんだ緑の診察台で、麻酔の影響で落ちないようにと手足を太いマジックテープのようなもので固定される。
腕には点滴の針も刺され物々しい雰囲気。
「では、麻酔が入ります。すぐに意識が無くなりますよ、数を数えてください」
左手の静脈に少しずつ透明な液体が注入される。
「1、2、3」
その後の最初の記憶は今までに経験したことのないような激しい腹痛とカーテン越しに聞こえてくるもう一人の女の子の泣き声だった。
麻酔で朦朧としていた意識が一気に戻る程の痛み。
これが一つの命を殺めるということ、そう私に示すかのような苦しみだった。
枕に敷いたタオルを握りしめてもどれだけ体勢を変えても痛みは増すばかり。
隣から聞こえてくる声にますます恐怖心が煽られた。
安心してすくすく育っていた華ちゃんが味わった痛みを考えると当然の報い。
そんなことを考えるとやりきれない思いが胸一杯に広がり、身の置き所がなくなるような悲しみに心が潰れてしまいそうだった。
落ち着かない様子の雅紀は何度も喫煙室と部屋を往復していた。
《コンコン》
「はい」
「岩堀さん、時間です。行きましょうか」
黙って頷き起き上がりベットへ腰かけて立ち上がろうとした瞬間に雅紀が言った。
「すみません、あと5分だけいいですか?」
状況を察したように看護師さんは出て行った。
「どうしたの?」
私の問いかけにも答えずにお腹に手を当てる。
そっと何かを話しかけるように、ずっとずっと手を当て続けた。
手術室は診察室とそれほど違いはなかった。
でも柔らかなピンク色ではなくくすんだ緑の診察台で、麻酔の影響で落ちないようにと手足を太いマジックテープのようなもので固定される。
腕には点滴の針も刺され物々しい雰囲気。
「では、麻酔が入ります。すぐに意識が無くなりますよ、数を数えてください」
左手の静脈に少しずつ透明な液体が注入される。
「1、2、3」
その後の最初の記憶は今までに経験したことのないような激しい腹痛とカーテン越しに聞こえてくるもう一人の女の子の泣き声だった。
麻酔で朦朧としていた意識が一気に戻る程の痛み。
これが一つの命を殺めるということ、そう私に示すかのような苦しみだった。
枕に敷いたタオルを握りしめてもどれだけ体勢を変えても痛みは増すばかり。
隣から聞こえてくる声にますます恐怖心が煽られた。
安心してすくすく育っていた華ちゃんが味わった痛みを考えると当然の報い。
そんなことを考えるとやりきれない思いが胸一杯に広がり、身の置き所がなくなるような悲しみに心が潰れてしまいそうだった。