10年越しの恋
夜になって唯一事情を知るゆうが会社の帰りに訪ねて来てくれた。


「瀬名、体調はどう？」


「忙しいのにごめんね」


頑張って笑ってみたものの、ゆうはすべてお見通しだった。

だからこそ空気を壊さないようにそっと傍に来て優しく微笑んでくれた。


「お見舞いって言うのも違う気がするけど、瀬名が大好きなさくらんぼ買ってきたよ」

ピンク色のかわいい実が半透明の籠に詰まっている。


ベットに横になる私のあまりの顔色の悪さに驚いたみたいだったが明るく振舞ってくれた。


「会社からまっすぐ来てくれたんだよね、お腹減ってない？」


雅紀が差し出したハンバーグ弁当を手にするゆうの表情が一瞬厳しくなるのを感じる。

でもすぐに見間違えだったかと思うぐらいに柔らかい、いつものゆうの笑顔に戻り受け取った。


「じゃあこれ食べたら帰るね」


今日の出来事には誰も触れることなくただ流れて行くTVを話題に時間は過ぎていった。


「ごちそうさま、そろそろ帰ろうかな」


「ゆう、忙しいのにごめんね」


そんな私にそっと微笑むと言った。


「この辺り怖いから少し雅紀君借りてもいい？」


「もちろん！　まあちゃん、ゆうをよろしくね」


そうして部屋を出て行った。
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