10年越しの恋
~ゆうの気持ち~

地下にある駐車場へ向かうエレベーターの中で私は不機嫌なままだった。

心に渦巻く不愉快な気持ちを爆発させずにはいられないそんな思いでいっぱいになった。


「雅紀君は結局親の言いなりになったってわけ?」


「どういう意味ですか? 俺は産もうって…」


「えっ? あのこと聞いてないの?」


「あのことって」


「瀬名の馬鹿、雅紀君に話さないでこんなこと…」


「一体どういう?」



「ちゃんとあの後、私に報告してくれた後に二人で話し合ったと思ってたから、ごめん気がつかないで」


雅紀君は本当に何も知らないみたい。

だからこそ伝えないといけないと思った。


「でもあなたが知らないでいるのは許せないから。絶対に言うなって口止めされてたんだけど」


私は乗り込んだ車内で真実を告げた。

瀬名が雅紀君の親に自分の両親を蔑まれ、お金目当てで子供を作ったと言われたこと。

お姉さんであるさえさんの結婚の妨げになるから子供を諦めるように言われたことをすべて話した。


「慰謝料まで渡すって言ったらしいよ」


「俺…、全く知らなかった。それで瀬名を責めたりもした」


「5年も一緒にいて分かんなかったの? 瀬名がこういう性格ってこと」


「なんで話してくれなかったんだよ」


悔しそうに拳を握る雅紀君を見て、私まで切なくなった。

あんなに仲のよかった二人を襲ったこんな出来事になすすべもなかった。


「瀬名は自分に全く自信がなくって、両親の事も大好きなのにその存在がまたコンプレックスでさ。強そうに見えて本当はいつも一人ぼっちで弱いんだよ」


「ゆうさんには相談してたんですか?」


「うーうん、相談じゃなくて報告。でも今回だけはちゃんと雅紀君に話すように言ったんだけど…」


「じゃあ、ゆうさんにも相談せずに?」


「一人で抱え込むつもりだったんじゃないかな」


その後はお互いに言葉が見つからないまま私の家に到着した。


「瀬名のこと頼んだからね」


頷く雅紀君から伝わってくる気持ちがあまりにも辛く、そのまま車のドアを閉じて見送った。
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