10年越しの恋
ゆうと雅紀がいなくなった部屋はとても静かだ。

手術を終えた頃からあまり現実感がない。

特にこうして一人でTVを眺めているとなおさらで、今が一体何月何日で雅紀が出て行ってからどれくらいの時間が経ったのかも分からなかった。

ふと時計に目をやるとPM11:00を示している。

病院を出る時に言われた言葉を思い出した。


「眠る前に必ずガーゼを抜き取って下さい」


ふらふらとベットから立ち上がりビジネスホテル特有の狭い洗面所へ向かう。

下着を脱いで体内へ詰め込まれている布の端に指を掛け、目を閉じてそっと引き抜いた。

右手には鮮明な赤色のガーゼ。

それが目に入ったとたん猛烈な恐怖に襲われ、体中ががたがたと震えだす。

そしてそのまますぐ傍にあった壁に後頭部を打ちつけるような体勢で崩れ落ちた。


「瀬名? 今の音なに? どこにいるの」


ちょうど同時に部屋へ戻ってきた雅紀がドアを開いた。


「大丈夫か、どうしたんだよ」


震えが止まらないまま放心状態で床にへたり込んだ私を抱きしめてくれる。


「華ちゃんがいない。これって夢だよね、なんか悪い夢を見てるんだよね」


その視線は焦点が定まらないまま宙を漂う。


「瀬名、しっかりして!」


「これは華ちゃんがいなくなった証拠なの?」


投げ出された右手にあるガーゼを示す。

息もできないほど強く腕に力を込める雅紀。


「まあちゃん助けて……」


手術の後初めて流した涙はとめどなく流れ続けた。


「こんな小さな体で1人で抱えて傷ついて、どうして俺を信じてくれなかったんだよ」


悔しそうに呟く雅紀の声も涙混じりで上手く聞き取れなかった。

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