10年越しの恋
そのままどのくらい狭い洗面所で二人は泣いていたんだろう。

少し落ち着きを取り戻した私を雅紀はベットまで抱きかかえ運んでくれた。

横になっても涙は止まることなく枕を濡らし続ける。

床に座り何度も何度も流れる涙を拭ってくれる雅紀の手。

そのぬくもりに少し現実感が戻ってくる気がした。


「ゆうさんに全部聞いたから」

驚くような視線を雅紀に向けると、その表情は驚くほど穏やかで優しいものだった。


「ごめんな… 気付いてやれなくて」


「私こそ… ごめ」


謝ろうとする言葉は遮られた。


「瀬名が謝る必要なんてどこにもないから。でもどうして話してくれなかったの?」


「……怖かった。なんか話したらまあちゃんに嫌われるような気がして、それに」


「それに?」


「悔しかったの。二人の付き合いをバカにするみたいにお金目当てだとか言われて。だからそうじゃないってことを証明するにはこうするしかないって」


そんな私の言葉に悲しそうな目をする。


「だってこうすればどんなことだってまあちゃんの為なら我慢できるっていう説明になるでしょ?」


「だからってこんなこと……」


今度は雅紀がまた苦しそうに涙を流し始めた。

私の手を強く強く握り締めながら。


「ごめんね」


繰り返される声が悲しく部屋に響いた。



眠れないまま迎えた朝。

少しずつ上る太陽が夏の空をきれいに染め始めた。

どんな辛い夜もこうして明け、新しい1日がやって来る。



私たちはホテルをチェックアウトして術後検診へと向かった。

少し出血が多いようだから無理をしないよう注意を受けた以外に問題はなかった。


「じゃあ今夜また」


そう言っていつもの公園の前で別れた。

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