10年越しの恋
目を覚ますとそこは医務室だった。

消毒薬の匂いと、やけに糊でぱりっとしたシーツが中学時代の保健室を思い出させる。

部屋の広さとベットの数に違いはあるものの、その雰囲気は同じ。

起き上がろうとすると頭が少し痛んだが、そのまま靴を履いて人を探した。


「すみません…」


小さく呼びかけるとパーテーションの向こうから白衣を着た女の人が顔を出す。


「気がついた?」


そう言いながら近づいて来たその人は50代くらい、人を安心させる感じがまさに保健室の先生そのものだった。


「すみません… えっと私……」


「エレベーターホールで倒れてるところをあなたのお友達、西田君って言ったかしら?」


「西田君?」


「その彼が見つけて知らせてくれたの」


「そうだったんですか… 全然覚えてなくて」


答えながらまたふらついて近くにあった椅子に手を掛けると、肩を支えてくれながら微笑んだ。


「貧血だと思うんだけど、何か悩み事でも?」


私の気持ちを見透かすようなその眼差しに嘘はつけなかった。


「ここのところ全然眠れなくって」


「そう… よかったら病院紹介するけど」


正直抵抗はあったけど毎日、夜になると襲われるあの不安から解消されるなら。

「お願いできますか?」


そう素直に答えた。


その後、西田君から連絡を受けて迎えに来てくれた雅紀と二人で心療内科を訪ねた。

簡単な問診の後にたくさん質問を受けたが、本当の心にある気持ちはまだ辛すぎて言葉には出来ない。

だた眠れないそう繰り返すと軽い安定剤が処方された。


家までの道のり、優しく重ねられる雅紀の手にも心張りつめたままだった。

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