10年越しの恋
「着いたよ」


雅紀の声に窓の外を見るといつの間にかもういつもの公園の前だった。


「帰りたくない……」


そう小さく呟くと雅紀が優しく頭に手を当ててくれる。


「どうしたの?」


「…やっぱり親の顔が見れない」


「辛いよな」


「話したいけど、堕ろした理由は説明出来ないし」


「ごめんな、俺あいつら絶対に許さないから」


ギュッと自分の悔しさを伝えるように運転席から体を乗り出して抱きしめてくれる。

こんな言葉も雅紀を責めることになってしまうんだって、弱った涙腺からまた涙が溢れだす。


「そうじゃないの、そんな意味じゃなくて」


「だってそうだろ、あいつらが…」


「違うの、結局は私自身が自分の親に自信が持てなくて… まあちゃんの両親やさえちゃんに会わせる自信がなかっただけなんだよ」


「でもあいつらがあんなひどいこと言わなかったら」


「ずっとコンプレックスだったの。特に中学に入ってからかな? いいお家のお嬢さんに囲まれて、いつも自分だけが情けない存在に感じて実際いじめにもあったし……」


負けたくなくて必死で自分だけはきちんとした人間になりたいと思った。

ちゃんと大学を出て、マナーも常識も知った大人になりたかった。

でも結局は一人相撲で肝心な心の強さを欠いていた。


「瀬名……」


「留学して、大学入ってもう大丈夫だって思ったの。バイトしてそれなりの物を身につけて、でもやっぱり偽物は大事な場面で化けの皮が剥がれちゃった」


泣き笑いのような表情が自然に浮かぶ。


「巻きこんじゃってごめんね。まあちゃんは何も悪くないの」


「何でだよ、俺は瀬名の両親を素敵だと思うよ」


雅紀のそんな言葉にただただ首を横に振ることしか出来なかった。



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