10年越しの恋
~雅紀の思い~

瀬名が倒れたと連絡を受けて俺は車のキーと財布だけを手に駐車場へと急いだ。

俺がだるいとさぼったサークルのミーティングに出席していた西田からだった。


「ただの貧血みたいだよ」


あいつからの報告にも落ち着かなかった。

医務室のベットに真っ青な顔で横たわる瀬名を見た時、母親と姉貴に対する怒りがMAXに達した。

いつもの公園の前で「帰りたくない」とつぶやいた瀬名のか細い声にその背負ったものの大きさを改めて実感した。



「ただいま」

家に帰ると親父と母親そして姉貴のさえがTVを見ながら楽しそうに談笑している。

体に湧き起こる怒りをドアを閉める手に込めると家が揺れるほどの音がした。


「もっと静かに閉めなさいよ!」


ソファーにだらしなく寝そべるさえに持っていたキーケースを投げつける。


「何すんのよ」


「話がある、そこに座って」


リビングのテーブルを顎で示した。


「なんでー 明日も仕事で大変なのに」


「殴られたいのかよ」


いつもとまったく話し方の違う俺に雰囲気を察した母親がさえを無理矢理に席に着かせた。


「何の話かはもうわかるよな」


そう言うと母親とさえは一瞬にして表情を硬くする。


「雅紀、全く話が見えないんだが」


「親父は黙って聞いてて」


勢いに誰もが黙り込んだ。


「姉貴の彼氏の家族と今週末食事会とかって言ってたよな? 俺行かないから」


「そんなの許される訳ないでしょ! 向こうが全員出席だって言ってるのに」


甲高い声でさえが叫ぶように言う。


「人間として許されないことしたのは誰だよ」


「……」


「てめーらだろうが、それなのに俺には笑って出席しろって言うの?」


冷静な俺の声が逆に厳しく響いた。


「雅紀…」


動揺を隠せない母親がやけにしらじらしく見える。


「どういうことなんだ、説明しなさい」


状況を把握できない様子の親父に向かい合うように姿勢を変えた。
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