10年越しの恋
土曜日は大きな通りに面したオープンカフェで待ち合わせ。

6車線の車が途絶えることなく行きかうメイン通りが目の前にあるのにも関わらず、街路樹の緑がきれいで寒いぐらいに冷房の利いた店内は同じように待ち合わせをする人で賑やかだ。

3か月振りに会ったさやはやっぱり少し社会人独特の雰囲気を身に着けていたけど、相変わらず豪快な笑顔は健在で会っていなかった時間を一瞬で忘れる。


「今日雅紀君は来ないの?」


「久し振りだからって誘ったんだけどなんかフットサルの試合があるって」


「そうなんだ、会いたかったのにな」


「それよりさやは彼とどうなの?」


「遠距離だけど向こうが出張で東京にしょっちゅうくるからなんとか上手くいってるよ」


「今日は?」


「休日出勤みたい。でも夜合流できたらするって」

ふぅーんと軽く返事をしながら甘くないミルクティーを飲むと本当は巻き戻せないはずの時間が逆回りするみたいだった。


「なんか楽しいね!」


少しだけ以前の自分に戻ったみたいで悲しみから心が解放される気がした。


「今日の夕飯なんだけどイタリアン&ワインなんてどう?」


さやが東京で知り合った結構名の知れたカメラマンが副業で始めたばかりのお店に挨拶を兼ねて顔をださないといけないから付き合って欲しいとのこと。


「私も長い間ゆっくり飲んでないから美味しい前菜とワイン大賛成!」


カフェを出て高級ブランドの路面店を冷やかしながらその店へと向かった。

たった数週間振りなだけなのに華やぐ街がとても新鮮で、いつもならうっとうしいだけの人混みすら何故か私の感情を穏やかにしてくれる。

街路樹の濃い緑の間から差し込む夏の強い日差しが深い海の底に沈みつつあった私を海面へと導いてくれるようだった。

でも、まだそこは海の底ではなかったことをこの後知ることになる。

< 205 / 327 >

この作品をシェア

pagetop