10年越しの恋
繁華街に近い大きな駅から1駅西へむかったこの街は最近おしゃれな店がどんどん出店されている注目の場所。

マンションが乱立し始めた下町に隠れ家風の小さなレストランが点在しているのが人気の理由だった。


案内はがきに記された小さな地図を手掛かりに歩くさやが見つけたその場所は、ビルの1Fにある30席ほどのシンプルな内装がクールなお店だった。


「こんばんは」


そう言いながらドアを開き入るとオーナーのカメラマンが親しげにさやへ近づいてきた。


「いらっしゃい、来てくれたんだ。どうぞ」


まだ時間も早く全くお客さんがいなかったので、1番奥の陰になった落ち着く席に通された。


「ちょうどこっちに帰ってくる予定だったから」


そう説明しながら話すさやの隣で愛想笑いを浮かべていると名刺を手に挨拶を受けた。


「近くにお住まいならこれからもよろしく」


「はい」


人見知り全開の私にさやは爆笑しながらもさっさとメニューを手にオーダーを始める。


「赤でいいよね? それと前菜盛り合わせ」


今日は飲むぞ! って決めた日の定番メニュー。


「お待たせしました」


もちろんフルボトルで注文したワインがグラスに注がれると高々と顔の前に掲げて軽快な音を鳴らした。


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