10年越しの恋
雑誌が提案する巻き髪に一歩間違えるとひじきにしか見えないまつげ、太く引かれたアイライン。モテる、お嬢様風そんなキャッチコピーそのままのグループだった。


”こういうグループに限って裏ではライバル心丸出しで醜い争いがくりひろげられてるんだよねー”って


学生時代の経験を元に自分の姿が見えないのをいいことに観察していると、さやが通路に広がった彼女たちを明らかにうっとうしそうに押しのけて戻って来た。

「あの子たちって私達と同世代の読者モデルだよね」


「そうなの?」


「それもA大集団だよ」


よく見ると確かによく見かける顔ぶれ。

大学卒業後も一つ上のお姉さん雑誌の誌面を毎月にぎわしている人たちだった。


「ごめん、遅れちゃった」


そう言いながら一人で少し遅れて入ってきた黒いミニスカートに可愛いベビーピンクのニットに身を包んだ姿に目を奪われる。

さえちゃんだった。


気付かない振りをしてさやの空いたグラスに運ばれてきたワインを注ぐ。


「パスタも食べる?」


そう言いながら小皿に取り分けると、


「瀬名が取り分けするなんてめずらしいね」


慣れない手つきの私を不思議そうにワインを飲みながら眺めるさや。


「ふふふ、大人になったの」


そう言って誤魔化してみたものの私の手は小刻みに震えていたと思う。



2本目に開けたワインの心地よく甘い香りとささくれ立つ気持ちに気づかない振りをするためにハイペースで飲み続け、我慢できなくなった私はさえちゃんのいる5人組みに背を向けるようにうつむいたまま足早に私も洗面所へと席を立った。


スローな音楽が流れる洗面所内は店内の喧噪が嘘のように静かだった。

鏡を前にリップとグロスを塗り直しているその時にあんな会話が交わされているなんて夢にも思わなかった。

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