10年越しの恋
さすがにふらつき始めた足取りで席に戻るとさやの表情が冴えない。


「どうしたの? 気持ち悪くなちゃった?」


少し狭い席にお尻を滑らせながら座って顔を覗き込むとますます怒ったような表情になる。


「出よう! 違う店で飲みなおそう」


立ち上がったさやの視線の先にある会話に耳を澄ますとさえちゃんの甲高い声が聞こえてきた。


「あんな女のせいでパパにビンタまでされちゃったんだよ、絶対許せないと思わない?」


「そうそう、瀬名だっけ? 子供堕ろして当然だよね。どうせさえの家の財産目当てなのみえみえじゃん」


私の様子が一変したのを感じたさやは強引に手を取って外に連れ出した。

その瞬間に合ったさえちゃんの目で気づいた。

私がいるのを知っていたことを。



「あれって雅紀君のお姉さんだよね……」


「そうだよ、でもさやと同い年で私の一つ下」


「そんな情報どうでもいいから」


あまりに辛いと人は冷静になりすぎてこんなどうでもいいことを口にするのかもしれない。


「あの女が言ってた子供堕したって、本当なの?」


せっかく久しぶりに会えたのにこんな話、絶対に知られたくなかったこと。

でももう嘘はつけないって思った。


「……本当の話だよ」


そんな私の言葉に大粒の涙を流し始めたさやをもう見てはいられなかった。


「どうして相談してくれなかったの… そんなに友達として信用できない?」


「そうじゃない、さやのことは大好きだし信じてる。でもこんな自分を知られたくなかったの、あんな風に言われる情けない自分を」


「瀬名?」


「弱い自分を見られたくなかったの、みんなに迷惑かけたくなかったの。本当にごめんなさい」


もういろんな感情に心が張り裂けそうで、大切な友達まで傷つけてしまったことにたまらなくなってその場から逃げ出すことしか考えられなかった。

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