10年越しの恋
「着きましたよ」
ドライバーのそんな声にもうつろなままお金を渡して車を降りた。
そっと玄関を開き階段を上るとモモがしっぽを振りながら待ってくれている。
そんな姿にまでも苛立ちを覚え押しのけるように冷蔵庫からビールを取って部屋へと駆け込んだ。
今日も両親は不在。
どうしようもない不安と孤独を、一気にビールで喉へ流し込む。
お気に入りのDVDを見ても音楽を聞いても一向に穏やかさを取り戻せない感情に我慢できなかった。
何本目かのビールを飲み終えた後、酔いが回った頭に浮かんだのは病院から処方された薬の存在。
テーブルの上にある白い袋からまだほとんど飲んでいないシートを取りだす。
”どうかこんな醜い感情から解放してください”
そう願いながら白い錠剤を1錠づつ飲み込んだ。
その小さな塊を体内に取り込むほどに深い海の底へと沈んでいくことにも気付かずに……。