10年越しの恋
「ゆう……」


「何やってんの、お酒飲んで薬まで……」


「何でここにいるの? どうしたの?」


「どうしたはこっちが聞きたいよ」


「ただ眠りたかっただけだよ、寝てる間は何も感じないし考えずに済むから」


またすぐに寝てしまいそうな瀬名に話し掛け続けた。


「救急車呼ぼうね」


「そんなことしないで。この程度の薬の量じゃ死ないいし、別に死にたいなんて思ってないから」


動揺する私に反して意外に冷静な言葉に驚く。


「ただもう自分の中にある醜い感情を感じたくなかっただけなの」


「どういうこと?」


「こんなに悲しくて苦しくて寂しくて、日が経つにつれて人を羨んだり憎んだり。そんな気持ちしかない自分が嫌で」


「うん」


「それなら幸せや喜びも感じることが出来なくてもいいから空気みたいな存在になりたかった」


話しながら涙を流す瀬名に掛ける言葉が見つからなかった。


「ここにいるから安心していいよ。もうすぐ雅紀君も来てくれるから」


小さく頷いて私の膝の上で眠り始めた瀬名の表情は今この瞬間だけすべてのものから解放されたように安らかだった。


「すべてが夢だったらいいのにね」


月が太陽の強い光に覆われて見えなくなるようにこの深い闇が朝日が昇るとともに消えればいいのに。

そう思いながら寝息を立てる髪を撫でた。
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