10年越しの恋
雅紀君が出て行った後、眠り続ける瀬名の部屋で見つけた1通の手紙。

宛名はお父さん、お母さんへとなっていた。

見てはいけないのは重々承知の上で封を開く。

昔から変わらない右上がりの少し癖のある文字が並んでいた。


To. お父さん、お母さん

突然の手紙で驚かせてごめんなさい。

今日手紙を書いたのは…、もうお母さんは気づいていると思いますが雅紀くんとのことです。

これまで5年付き合っていて、何度か家にも遊びに来ているので知っていますよね。

そんな私達の間に7月の終わり、子供が出来ていることが分かりました。

二人で何度も話し合って1度は産むことに決めたのだけれど向こうのお母さんとお姉さんに反対されました。

その理由があまりにも父と母を馬鹿にした内容だったので、二人を傷つけたくなくて相談もしないで8月10日に手術を受けました。

一人で平気なつもりだったのに…。

想像以上の辛さと、同じ女の母には分かって欲しい。

妊娠が分かってからたった3週間程だったのにびっくりするぐらい私の気持ちはお母さんになってて、お腹の中にはもう赤ちゃんはいないのに変に芽生えた母性が私を苦しめるのです。

私は人殺しです。見栄やプライドの為に自分の子供を殺してしまった。

そんな自分を許せなくて、苦しくて苦しくてどうしようもなくて。

もう平気な顔をしていられない。

私の努力だけではどうにもならないことがあるんだね。

親の学歴や家の仕事なんかを言われたらもうどうしようもないよ。

どうしたらいいですか? 助けてください。



そこには誰にも語られなかった瀬名の気持ちが綴られていた。


”これお父さんとお母さんに届けてもいいよね”


答えるはずのない瀬名に話しかける。

手紙が目の前にあって導かれるように読んだこと。

なぜかそうすることが自分の親友としての使命のように思ったんだ。


少しして帰宅した瀬名ママの元へ私は階段を駆け降りてこの気持ちを届けた。


「あらゆう! 来てたの瀬名は?」


「眠ってます。 これ読んで貰えますか?」


シンプルな白い封筒を手渡し私はそのまま自分の家へと駈け出した。


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