10年越しの恋
思うようにコントロールできない自分の感情にイライラして八つ当たりしても優しいままでいてくれる。

親にも友達にも素直になれない。

そんな私にはもう雅紀しかいなかった。

「家に閉じこもったままじゃ良くないよ」


そう言って毎日の電話の代わりに昼間は調子が悪く外出できない私に夜会いに来てくれるようになった。



♪プルルルル♪

今日も雅紀からの電話が鳴る。


「公園の前だよ」


「うん、今から行くね」

あの日以来いつもノーメークのままだった。

車へ乗り込むといつもの笑顔がそこにはある。

唯一の大切な存在。


「今日の調子はどう?」


「大学院の願書受付今日までだったんだ」


「ちゃんと出した?」


「出さなかった」


「どうして! 郵便局行けなかった?」


「私に命を扱う資格ないから……」


華ちゃんを殺めて以来ずっと自分の中にあった疑問。

生きたいと願う人の心を扱うカウンセラーになりたいと思っていた。

それも小さな子どもの命を考えることを仕事にしようとしようと考えていた自分が……。


「今、命の重さに苦しんでいる瀬名だから出来るんじゃないの?」


雅紀のそんな言葉にも固く閉じてしまった心はもう反応しなかった。


「自分を許せないの、今日でもう何にもなくなちゃった」


目を閉じるとあの日の未来ちゃんの笑顔が浮かぶ。


”約束守れなくてごめんなさい ”

そっと胸の前で手のひらを合わせた。


泣いてしまうかと思ったのに…。

もう涙も出なかった。


「瀬名…」


「これでいいんだよ、私の人生なんてこんなもん」


無表情のまま夜景を見つめる私を抱きしめる雅紀の腕からも何も感じることが出来ない。

悲しみを感じないようにするためにすべての感覚を消し去ってしまった自分を知った。
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