10年越しの恋
まだまだ不安定な気持ちのまま3月を迎え、免許を取った後は働きに出ることを勧められた。

医師にはまだ無理だと止められていたが親も周りのみんなも痺れを切らし始めていたのでやるしかなかったんだ。

不景気な世の中で1年遅れの第二新卒として就職活動を始めた私を相手にしてくれる会社はほとんどなく、おまけに電車に乗ると時折襲ってくる過呼吸の発作に苦労した。

4月になっても決まらない新しい道が急に開けたのはもうGW目前のことだった。

履歴書を送ったかどうかも忘れてしまうぐらい興味のなかった小さな会社からの一本の電話。

”優先的に採用を検討しています”

そんな内容だったと思う。

翌日には面接だった。

ビジネス街にある一応自社ビルだと言う小さな建物。


受付らしいものもない扉を開くと雑然と机が並ぶフロアーが広がっていた。


「本日面接の予約をした岩堀と申しますが」


これで返事がなかったら何事もなかったことのように引き返そうと思うような会社だった。


「お待ちしてました」


気持ちとは裏腹に紳士的な風貌の50過ぎぐらいだろうか? ひょろと背の高い、いかにも総務的な男性が迎えに出て来てくれた。


「よろしくお願いします」


マニュアル通りに頭を下げると応接室に通された。


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