10年越しの恋
お世辞にも立派だとは言えないソファーに浅く腰を下ろし、身なりを整えて採用担当者を待った。


面接は形式通りのもので志望動機なんかが質問される。


「では、学生時代に学んだことをどう仕事に活かしたいですか?」


就職情報誌にあった典型的な質疑応答の一つ。

でも私にとっての一番の難問だった。

別にこうして一般企業で働くために勉強したわけじゃないと馬鹿正直な気持ちがそのまま口をついて出た。


「正直に申し上げると、私は大学院進学を希望し心理学の中でも医療に関する分野をメインに勉強していたので企業で働いて活かせることは何一つないと思います」


普通に考えてもあり得ない回答を堂々と伝えて面接を終えた。


”これじゃあ何百社受けても落ちて当然だよ”


帰り道コーヒーショップで煙草を吸いながら自分にあきれていた。

なのに家に帰ると弾むような母親の声に迎えられた。


「夕方に採用の電話があったよ」


物好きな会社があるんだなって思った。

GW明け人生の第2章の幕が開く。
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