10年越しの恋
8時半から始まった朝礼では新入社員として紹介される。


「岩堀瀬名です。よろしくお願いします」


何を言えばいいのか分からずたった一言の挨拶。

こうして私の社会人生活が始まった。


引き継ぎ期間がたった1週間しかないということで次々に仕事の説明を受けたがちんぷんかんぷん。

初日に理解できたことは自分の仕事が経理に近いもので会社が請け負った各現場の予算管理や請求書を作ったりするということ。

3日目ぐらいに知って驚いたのがこの部署の事務は私一人だということだった。


「無理ですよ!!!」


そう総務に直訴してみたものの笑って流されてしまった。

想像以上の仕事内容の多さにほとんど訳が分からないまま迎えた引き継ぎ最終日。


「三井さん… 私ほんと無理です」


残すは午後の4時間のみになって思わず本音を漏らした。


「そんなこと言わないでよ。短い間でもわかったでしょ! 営業のオヤジは確かにくせものが多くてうっとおしいけど若い子たちが助けてくれるから」


確かにメインで仕事に関わる人たちは現場の若い社員ばかりで、部長も笑い声が豪快なやさしいおやじと言った感じだった。


「でも…」


弱気な発言を繰り返していると現場から戻ってきた江崎くんが近づいてきた。


「お嬢さんがごねてるの?」


「そんな言い方ひどいですよ。ほんと困ってるんですから」


180cmはあるだろう長身で現場の力仕事で鍛えられたがっちりしたヤンキー臭さの抜けないその顔を見上げるように愚痴る。


「江崎君、助けてあげてね」


そんな三井さんの言葉に親しげな笑顔を返した。


「お兄さんに任せておきなさい」


そう言い残してあっという間に部長の元へと去っていく江崎さんの後姿を見送る三井さんの目が気になったけど、あえて見ない振りをしておいた。


「じゃあラスト引き継ぎがんばろうね」


「はい!」


あっと言う間の1週間だった。

今日は金曜日、仕事帰りに雅紀に会える!

プレッシャーまみれだった毎日に疲れ切った自分を奮い立たせるように終業時間までひたすらメモを取り続けた。
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