10年越しの恋
夕方5時に終業時刻を知らせるチャイムが鳴る。


「ありがとうございました」


一応一通りの仕事内容を聞き終えると三井さんに頭を下げた。


「分からないことだらけだと思うけど頑張ってね」


5年近くここで働いていたというその表情はやり遂げた感と、少し寂しさの入り混じった複雑なものだった。


「三井さんお疲れ様でした」


部長の一言から始まる送別会。


「今までありがとうございました」


あいさつの後本当にみんなに慕われていたのが分かるような別れを惜しむ姿を見ながら、私はこっそりその場を抜け出して帰路へと向かった。


会社近くの駅にはすでに雅紀の姿がある。


「お待たせ!!!」


駆け寄る私にゆっくりと近づいてくるその姿にやっと肩の力が抜けてほっとした。


「お疲れ様」


「やっと1週間終わった! 疲れたよー」


「瀬名の就職祝いしよう!」


「うん! 焼肉食べたい」




店へ向かう道も食事中もこの1週間を興奮気味に話し続けたが嫌な素振りを見せることもなく聞いてくれた。

未だに雅紀と抱き合うことが出来ないままだったけど、またこうして少しづつ二人の距離が縮まっていくのがうれしかった。

こうして二人で過ごす時間が何もなくなってしまった私の人生のすべてだったんだ。

雅紀が傍にいてくれていたから少しずつ前に進むことが出来たんだよ。
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