10年越しの恋
BBQ当日の土曜日は梅雨入り前なのに初夏を思わせる快晴。

待ち合わせ場所は会社近くの河原。

ちょうどさやたちといつも集まった場所の対岸だった。

早めに到着したのにも関わらずもう江崎君を筆頭に準備を始めている。


「こんにちは! 手伝いましょうか?」


一番手前でクーラボックスにビールを冷やす大野君に声を掛けた。

入社6年目の24歳。同い年だけど会社では大先輩だ。


「今日はメインなんだからいいよ、何なら飲む?」


水滴を滴らせる缶ビールを目の前に差し出してくれる。

いつも気を使ってくれる彼も茶髪にピアス。そんな風貌ながら江崎君とコンビを組んで実力は認められた職人さんだ。


「じゃあご好意に甘えて」


ビールを受け取ると荷物を置くために敷かれたブルーシートへと向かった。


「もう飲んでるんですか?」


最年少21歳、藤井君が近づいてきた。


「はははは、大野さんがくれたんだ」


「飲んでていいですからね」


「手伝うからなんでも言ってくださいね」


「今日はいいです。楽しんでください」


そう言いながらまた準備の輪に戻っていった。


手にしたプルトップを開き口にしたビールはまだ少しぬるくて苦い。

学生時代同じようにみんなでBBQをした河川敷を対岸から眺めると何も変わらないように思える。

でもあの頃川の向こうにあった岸に自分が立っていて、川を挟んだ先に昔自分が立っていた堤防を見るのは不思議な感覚だった。

こんなにも違う場所に来たのだということを改めて感じた瞬間かもしれない。



少ない友達と深く付き合うこと。

大学時代食べ続けたオムライス。

毎晩10時の電話。

「愛してる」と告げる雅紀の声。

いつもの場所、いつものお店。

変化を嫌う私も変わらなければならない時期が来たんだと知らせるような景色を眺めていた。
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