10年越しの恋
若い男の子が多いこともあり会社の歓送迎会というよりは大学のサークルの乗りに近かったと思う。

大量に網に乗せたお肉が香ばしい匂いとともに焼きあがってもあっという間に無くなっていく。


「遠慮してたら食べられませんよ」


あまりの勢いに呆然としていたら藤井君が次々とお皿にお肉を乗せてくれる。


「ありがとうございます」


少し距離を置くような態度に「いつまで敬語使ってるんだよ」って大野君がつっこみを入れてくる。


「だって仕事で先輩じゃないですか」


「でも同じ年だよね?」


「そうだけど……」


人見知りが激しい私は他人に深入りされないように敬語で話す癖があった。


「もう今日からは敬語はなしね! そういえば、どうして瀬奈ちゃんはこの会社に来たの?」


「卒業後のこと全然考えてなくていつの間にかフリーターに。でもこれじゃあいけないと思ったんです」


いつか聞かれるだろうと思いあらかじめ考えていたままの答えを口にした。


「また敬語になってるよ!」



「勘弁してください… 」


上手く話せなくなる私をみんなが冷やかした。

江崎君を始め全員が地方の出身だということ。

工業高校を出てすぐに働き始めて、いつか独立する夢を持っていること。

たくさん聞かせてくれたみんなの履歴書は小さい頃父親から聞いた話を思い出させた。

何か見えない力に押し出されるように社会に出て不安でたまらない毎日。

雅紀とはまったく正反対の人たちが働く世界に足を進めたことは偶然ではなく必然なの?

自分ではどうしようもない流れを感じて怖かった。

でも本当の気持ちなんて考える余裕なんてどこにもなかったんだ。

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