10年越しの恋
堤防になった河原から階段を駆け降りると側道には雅紀の乗ったシルバーの車が停まっている。

「まあちゃん! ごめん」


慌てて駆け寄ると意外にもにこやかに手を振る姿があった。


「楽しかった?」


「やっぱりまだ慣れない人ばかりだからちょっと疲れちゃった」


「そんなことだろうと思ったよ」


いつも通りの穏やかな雅紀の声にほっとしたものの、怒っているとばかり思っていたから少し変な気分になった。


「待たせてごめんね。お腹空いたんじゃない? 何か食べに行く?」


「瀬名BBQで腹減ってないだろ、家まで送るよ」


「ここまで来てくれたんだし付き合うよ」


「ただ顔が見たかっただけだから」


以前は何でも思ったことを言い合って変に気を使い合うこともなかった。

でも最近の雅紀は急に怒ったかと思ったらこんな風におかしな気を使ってみたり束縛したり。

少しづつ二人の間にずれが生じてきていた。

気にするほどのことじゃないのかもしれない。

でも今まで二人の気持ちがあまりにぴったりと寄り添いすぎていたから。

だからこの微妙な空気感にとまどった。


電車だと1時間はかかるのに車だとあっという間に家に着いてしまう。


「まあちゃん、お茶ぐらい飲んでいこうよ」


たまらなくなってそう声を掛けた。


「わかった」


そういって国道沿いにあるファミリーレストランへ入った。


窓際の4人掛けの席で向かい合わせに座る。

メニューを開きながらすぐに煙草に火をつける雅紀の大きな手を見ていた。

いつも優しく暖かい掌、不安を収めてくれる甘い声。

変わらないよね……。

今は少し環境の変化に戸惑ってるだけだよね。

これから先もずっと一緒にいようね。

願いを込めながら目の前の顔に視線を移すと雅紀も同じように少し不安げに私を見つめていた。

目が合って恥ずかしくなり何か言おうとするとそれを察したかのように、


「ドリンクバーでいい? どれともビール?」


先に雅紀が声を発した。


「ドリンクバー」


タイミングがぴったりとあったことがうれしかった。

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