10年越しの恋
「おはようございます」


今日も始業15分前に会社へ到着した。

制服に着替え3階にある誰もいない会議室で煙草を吸う。

不本意な形で始まった社会人生活に対応するための自分なりの日課。

大学院進学への未練、心の中に封印した悲しみすべてに毎日鍵をかけて明るく元気な瀬名を演じるために必要な5分間。

窓から見える稼働し始めたオフィス街の喧騒に自然と気持ちが仕事モードへと変化した。

“さて今日も1日がんばりますか”

自分に気合を入れてデスクへと向かった。

午前中は領収書の整理を済ませた後、続々と届けられる請求書を確認して経理へと回す作業に追われる。

普段は朝礼にも顔を出すことの少ない営業の金田が昼前になっても何故かデスクにいて、社内の雰囲気が悪かった。

年齢的には40を少し過ぎたぐらいだろうか。会社で1番の営業成績を鼻にかけ傲慢に人を小馬鹿にする態度が鼻もちならない。

表面上は誰も逆らうことないように見えるが、実際は全員が関わるのを避けて無視していると言ったほうが自然な状態で金田にとって何も知らない私は格好の標的だった。

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