10年越しの恋
あと10分程で12時。

デスクへ戻る気にはなれずそのまま昼休みにしようと近くの公園へ向かいベンチに座った。

夏の正午という暑い時間帯にも関わらず、ちょうど反対側の遊具が集まる場所にはベビーカーを押した数人のママ達の姿がある。

そしてその周りをまだ足元もおぼつかない小さな子供たちが駆け回っている。

華ちゃんも生まれていたらもう4か月。

もうあんな風にベビーカーを押しながら散歩できたかな。

私ならこんな洋服を着せるのにな。

そんな想像が胸で膨らんだ。

空しい想像だということは十分わかっていたけど……。

新しい命を授かる幸せ。

友達と遊びに出掛けても、雅紀とデートをしても、どんなに美味しい食事をしても、

たぶん憧れのケリーバックを目の前に差し出されてもあんな幸せは感じることはできない。

大好きな人の子供がお腹にいるという感覚。

それは何にも代えがたいものなのだと失って初めて知ったんだ。

♪ぷるるるる♪

突然鳴った携帯の音で現実に引き戻された。


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