10年越しの恋
翌日は18時にさやと待ち合わせていた。

昼過ぎにお風呂へ入りたっぷりと汗をかいて肌の調子を整える。

鏡に映ったすっぴんの顔はこの1年でずいぶん痩せてしまった体に対して丸いままだった。

”何も変わっていない。あの頃の私だよね”

そう自分に言い聞かせ学生の頃のように時間を掛けて顔を作り、胸まで伸びた髪を丁寧にアイロンで巻いた。

派手な作りの顔をこれ以上目立たせないためにそろえた黒、グレー、紺色で統一されたワードローブの中から華やかな印象を与えるシフォン素材のワンピースを選んで身につける。

ふんわりとしたシルエットが痩せた体のラインを隠し以前の自分が目の前に現れた気がした。

最後に変わらず大好きな香水『エスケープ』の甘い香りを軽く身にまとい自分に魔法を掛ける。

”あの日の瀬名になるんだ”って。

10cm以上もあるピンヒールを履いて玄関を出る。

俯かずに背筋を伸ばして歩く駅までの道は昨日までとは全く違う世界に続いているようだった。



時間にルーズな私たちはいつもゆっくり待てるようにカフェで待ち合わせる。

駅から地下道で続くホテルのラウンジは意外な穴場。

1杯1000円の紅茶は高く聞こえるが実は飲み放題、しかも心地いいソファー席に適度な静けさ。

話しだすと止まらない私達にはうってつけの場所だった。

今日は時間ちょうどに到着したので1番だろうと店内を見渡すともうさやと咲がケーキに手を伸ばしていた。


「久し振り!」


ウエーターの案内を無視して手を振り駆け寄った。


「元気だった?」


迷惑そうな周りの視線を感じながらさやと挨拶を交わしているとその隣で咲ちゃんが微笑んでいた。


「この間は…。思い出せなくて」


正直に伝えると何の陰りもないその眼を向けてくれる。


「だってほぼはじめましてだもんね。私こそ驚かせてごめんね」


おおらかな咲ちゃんの雰囲気にすぐに親しみを感じて二人の前に座った。
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